人類の歴史と感染症は切っても切れない関係がある。今までの歴史で最も人の命を奪ったものは「戦争」でも「飢餓」でもなく「感染症」だからだ。人類に最も影響を与えて来た事から様々な「副産物」が誕生するキッカケにもなってきた。今回紹介するのは、世界で大流行した感染症と、それに伴い人類が得た副産物は何だったのか?それをまとめてみた。
感染症『5選』
ペスト
※画像はイメージです
病原体:ペスト菌
感染経路:「ノミ」から「クマネズミ」を媒介し「人」に感染
症状:倦怠感・高熱・頭痛・錯乱・黒い斑点
対策:14世紀【なし】 21世紀【抗生物質】
原因
ヨーロッパ原産ではなくモンゴル地方に存在していたが、モンゴル帝国のヨーロッパ進出や十字軍による東方出兵により、「クマネズミ」を持ち帰ってしまったのが初まりと言われている。元は腺ペストで人から人の感染は無かったが、途中で肺ペストに変化。肺で病原菌が繁殖する様になり飛沫感染を起こし、爆発的に蔓延し大流行を起こす。
歴史や影響・副産物
14世紀(1348年)のヨーロッパや各地域で大流行。感染してからすぐに発症し3日と待たず亡くなってしまうため、葬儀が間に合わず、道路などはペスト患者で溢れかえる事態にまで発展。全世界で8000万人〜1億人の人間が亡くなる。ヨーロッパにおいては、2000万人〜3000万人が亡くなり、当時の総人口が1/2以下にまで減少する。その異常な事態に人々は「神」「教会」に救いを求めたが感染は止まらず、教会の神父達は遠方に逃げ出しているなど「教会」への信仰、すなわち「宗教」「神」そのものに対して不信を抱かせる事になる。それが「中世という時代」そのものを終わらせるキッカケになったと言われる。
農業従事者の減少により、少ない人手で栽培可能な食物の生産方法や、人手確保のための労働に対し賃金を支払うなどの考えが普及するなど、経済・社会に対して絶大な影響を与えた。
21世紀の現在においても年間2000人程の感染者が発生しているが、抗生物質の存在により、流行までには至っていない。
コレラ
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病原体:ビブリオ・コレラ
感染経路:便で汚染された水や食物
症状:下痢・嘔吐
対策:水の塩素消毒
原因
発症者の便や嘔吐物に汚染された水や食物を、他の人達が接種したりする事で爆発的に増えていく。非流行時にこの菌が何処にいるかは諸説あり。
歴史や影響・副産物
19世紀(1800年代)の100年の間だけで、6回のパンデミックが起きている(現在は第7期目)。諸説あるが世界で5000万人程の人が亡くなったとされる。3回目の大流行の際にロンドン医師が、水の状態が良くない時期に流行している事から水が原因ではないかと考える。4回目の流行でようやく細菌「コレラ菌」が原因だと突き止める。
この事が原因により人類は「水を消毒する」する行為を覚えていく。現在に私たちが気軽に水を飲む事ができる様になったのは、この「コレラ」の流行の副産物でもある。現在でも世界で年間140万人〜430万人の感染者が発生し8000人〜4万人の人が今でも亡くなっている。
スペインかぜ
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病原体:A型インフルエンザウイルス(H1N1亜型)
感染経路:咳やくしゃみによる飛沫感染
症状:高熱・重篤な肺炎
対策:当時【一般的な感染症対策】現在【ワクチン等】
原因
諸説あるため確定的な事が現代でも不明なまま。第一次世界大戦中に世界的に人に移動や食料品の移動が活発になった事で、その地方にしか存在しなかったウイルスが様々な国や大陸に渡った事が関係している。
歴史や影響
20世紀(1918年)に世界中で大流行する。全世界で当時の人口が18億人に対して、2000万人〜3000万人・1億人(諸説有)の人が亡くなったとも言われている。世界的にこのインフルエンザに対抗するための免疫を持っていなかった事で、凄まじい蔓延速度をもたらした。
スペインで流行したから「スペインかぜ」と呼ばれる事になったわけではなく、スペインで800万人という他の国とは比較にならない程の人が亡くなったため「スペインかぜ」と呼ばれる様になったに過ぎない。ちなみに当時の日本でも大流行しており、25万人の方が亡くなっている。特に症状が重かったのは若者で、若さによる「免疫力の高さ」と「誰も免疫を持っていない事」が重なり、サイトカインストーム(自然免疫による異常反応)によって重症化していった。その年の冬には一端流行は収まるが、暖かくなると流行し出し、その後1920年になるまで猛威をふるっていった。
天然痘
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病原体:天然痘ウイルス
感染経路:口や鼻から侵入し、血液を通し各臓器に至る。
症状:高熱・特徴的な発疹
対策:ワクチン
原因
ウイルスの起源が定かではないが、アメリカは「コロンブス」によるアメリカ大陸の発見とともに上陸し、ヨーロッパからの植民により定着。日本では朝鮮半島へ渡った知識人達の帰国や渡来人達により6世紀頃に定着する。
歴史や影響・副産物
紀元前から人類の中で流行していたため、詳しい感染者数など不明。世界人口が8000万人の時代では数十年で1000万人まで人口が減少する。日本ではその感染症の猛威からくる恐怖により、仏教に救いも求め「奈良の大仏」が建造された程。スペイン人が新大陸を目指した結果、それと共に天然痘も渡りスペイン人とは違い、免疫力を持っていないアステカ帝国・インカ帝国の国力が著しく減少し滅亡する事になった。
天然痘による被害が馬に乗る騎兵隊に少なく、牛の乳絞りをしている人はもっと少ない事に着目される。それが「牛痘」を患った人の天然痘による被害が少ない事だと判明する。そのためあらかじめ「症状が軽い牛痘」にかかる事で「天然痘」を抑える世界で初めて「ワクチン」が開発される。
天然痘の副産物として、「弱毒性」の症状に掛かりあらかじめ「免疫」を獲得する概念が誕生した。人類が唯一根絶する事が出来た感染症。これは、動物や蚊を介する「中間宿主」が存在せず、「人から人のみの感染経路」である事が唯一の要因。
黄熱病
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病原体:黄熱ウイルス
経路:蚊
症状:発熱・黄疸・出血
対策:蚊の駆除・ワクチン
原因
元々アフリカ中南米で蚊と猿の間でやり取りがあったウイルス。そこに人類が進出していった事で、人への感染が広まっていく。しかし、この段階ではまだ一部地域内での出来事だったが、その後にその地域の人達を、自分達の大陸に連れていく人によって世界で広まっていく。
歴史や影響
原因不明の感染経路と高い確率で亡くなる事から人々に長らく恐怖を与えて来たが、1900年代にキューバの医師により、蚊を媒介しているのではないか仮説を立てる。軍の志願兵による実験で、とうとう蚊を媒介した病気である事が判明する。その後にワクチンの開発と蚊を駆除するための「DDT」という薬品が開発される。黄熱病の相次ぐ施工者達の発症により、長らく完成しなかった「パナマ運河」が蚊の駆除剤による黄熱病の防止で完成する。この発明と開発により世界最大規模の物流拠点「パナマ運河」が誕生した。
まとめ
以上、世界で流行った感染症の歴史とそれが人類が得た副産物でした。歴史を動かしたものや、今の私たちが享受できている事は、こうした不幸や人類の奮起に支えられていると思うと、過去に比べれば今は何とかなると、勇気が湧いて来たのではないでしょうか?
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