
1970年代の怪談ブームから現在まで語り継がれる都市伝説「カシマさん」。
「話を聞いた者の前に3日以内に現れる」「身体の一部を奪われる」「正しい呪文を知っていれば助かる」――。
この怪談は、単なる学校の怖い話ではなく、後の都市伝説に多く見られる「感染性」「致命性」「救済措置」という要素を早い段階で備えた、日本の都市伝説史において重要な存在でもある。
一方で、カシマさんには「カシマレイコ」「カシマさま」「仮死魔霊子」「鹿島大明神」など複数の呼び名が存在し、その正体や由来についてもさまざまな説が語られてきた。
終戦直後の悲惨な事件をもとにした怨霊説、口裂け女との関係、下半身を失った怪異「テケテケ」との類似性、さらには北海道の怪異「化神魔サマ」との関連など、その背景には複数の怪談が複雑に絡み合っている。
この記事では、都市伝説「カシマさん」のあらすじや対処法だけではなく、元ネタや名前の由来、正体にまつわる説、そして現代のネット怪談にも受け継がれる構造まで徹底的に考察していく。
- カシマさんとは?
- カシマさんとはどんな都市伝説なのか
- カシマさんの怖い話とあらすじ
- 遭遇した時の答え方・対処法
- カシマさんの元ネタと実在性
- カシマレイコとの関係
- テケテケとの違い
- 名前の由来とルーツ
カシマさんとは

カシマさんのあらすじ・概要
カシマさんとは、日本の都市伝説の一つで、「話を聞いたら3日以内に現れる」「呪いを解く呪文(キーワード)」が存在するタイプのもの。
「過去に起きた悲惨な事件」の話を知ってしまった者に対し、電話や夢などで現れ「謎」を問いかけてくる。この謎に正しい答えを返さないと、身体の一部だけでなく命も奪われてしまうとされる。
この都市伝説だが、面白いことに非常にブレがある都市伝説でもあり、カシマさんの他に「カシマレイコ」「カシマさま」「仮死魔霊子」「鹿島大明神」などの呼び名があり、性別も統一されていない特徴を持つ。
過去に起きた悲惨な事件とは「終戦直後の混乱期に、米兵に乱暴され列車に身を投げた女性」が一般的で、他にも様々なバリエーションが語られる。
そんな様々なバリエーションで語られるカシマさんだが、どの話にも共通して「聞いた人のところに現れる」「命を奪われる」「身体が欠損する」という一定のルールが存在する。
1970年代に一度流行するも、後の1990年代の学校の怪談ブームで再び全国へ拡散し都市伝説として定着する。
カシマさんの初出
インターネットや掲示板(2chなど)発祥の「コトリバコ」や「くねくね」とは異なり、口頭伝承(口伝)によって学校の怪談として広がった古典的な都市伝説のため詳細な初出は不明。
一般的に1970年代前半(昭和40年代後半〜50年代初頭)にかけて成立し、全国的に広まったとされている。
小中学生の間で爆発的に噂が広がるようになり、口裂け女(1978〜1979年ブーム)が全国で大ブームになる直前には、一部の学校ではすでに認知されていたとされる。
カシマさんが本格的に全国で知られるのは、口裂け女ブームの後となるため「口裂け女の本名はカシマレイコ」とする噂が流れたことで同一視されることもあった。(参考資料:初見健一「ぼくらの昭和オカルト大百科 70年代オカルトブーム再考」)
カシマさんの姿・特徴・出現場所

カシマさんの姿や特徴として、一般的に語られる姿は「四肢の一部がない」または「両足もしくは下半身がない」という欠損状態の女性のパターンが多くを占める。
稀に顔に火傷痕のある女性や、四肢を欠損した日本兵というものも語られるが、現在ではほぼ消滅し、上記の特徴を持つ怪異として統一されている。
カシマさんの話を聞いた者の前に3日以内に現れるためか、その出現場所は学校や自宅、トイレに風呂、果ては夢の中と、どこにでも現れるといわれている。つまり、一度話を聞いてしまえば、3日間身を隠してやり過ごすといった回避方法は存在しないということだ。
謎と対処法
カシマさんの話を聞いてしまうと、3日以内に現れ「謎」を問いかけてくる。
内容からして謎というより「カシマさんの要望」に近いが…。
・カシマさん「手がほしい」→A「今、使っています。」
・カシマさん「脚がほしい」→A「今、必要です。」
・カシマさん「その話を誰から聞いた」→A「カシマさん。」続けて「カは仮面のカ、シは死のシ、マは魔のマ、レイは霊のレイ、コは事故のコ」
こう答えると助かると言われている。
派生パターンとして「カシマレイコと唱える」「呪文を紙に書いて貼る」といった方法も地域によって異なる。
またカシマさん自身のなくした脚の場所を聞いてくる場合もあり、その時は「名神高速道路にあります。」と答えると助かるらしい。
カシマさんを徹底考察

ここでは、カシマさんについてインターネットや書籍で語られる説や、本記事独自のオリジナル考察などをまとめています。
カシマさんは口裂け女の二番煎じという指摘
🔍️ 口裂け女とは?
マスクをとると耳まで裂けた口が現れ、「私、きれい?」と尋ねてくる怪異。日本でもトップクラスに有名な都市伝説でもあり、市民のパニックにパトカーの出動騒ぎや、怖がる児童を安心させるため集団下校まで行われた。カシマさんとは違い出没はランダムとされ、いつ出くわすか分からない恐怖を子どもたちに与えた。
一般的にカシマさんの発祥は1970年代前半とも言われるが、確定的な初出は資料として確認されていない。一部では1972年、朝日新聞新潟版の地方紙で「現代っ子「カシマ」にビクビク」というタイトルで記事が上がっている。
サブカルチャー研究者初見健一は、岐阜県発の「口裂け女」が全国に広まった後に「口裂け女の本名はカシマレイコ」という流言を自身が直接聞いたと記録し、この経験をもとにカシマさんは口裂け女ブームに乗った二番煎じの怪談ではないかという可能性を示唆している。
ただカシマさんは聞いた者の前に現れる伝播構造、電話や夢を媒介に接触してくる接触構造、身体の欠損と口裂け女とは異なった独自の特徴も持っていることからも、口裂け女の二番煎じというより、同時代の他の都市伝説と相互参照しながら形成された可能性が高い。
カシマさんは実在するのか?
結論から言えば、カシマさんの実在を示す証拠は現在確認されていない。
最も流布された正体として、1948年、終戦後の米軍占領期において兵庫県加古川駅近くで米兵に乱暴された鹿島礼子(23)の怨霊だという説がある。
この説を松山ひろし『呪いの都市伝説·カシマさんを追う』 (アールズ出版:2004年11月)では、実際に兵庫県加古川高砂周辺で関連事件について取材を行い検証するも、この説に対応する史実は確認できなかった。
一方で、米軍占領期の兵庫県内で米兵による日本人女性が被害にあった事件は記録として存在し、この説の下地になったのではないかと推察される。
都市伝説において、その時代の不安要素を下地とした怪異の誕生は定番でもあり、実際に米兵による事件が都市伝説として語られるようになった可能性は十分ある。
テケテケとの姉妹関係
テケテケは、1980年代以降の学校の怪談ブームで定着した怪異で、カシマさんと同じく下半身がない。踏切や学校で遭遇するとされ、捕まると下半身を切り取られ同類にされてしまうといわれている。
カシマさんとは「下半身がない」「捕まると身体の一部を取られる」という共通点があり、怪談の由来となった物語も、カシマさんは「米兵に乱暴されたことで人生を悲観し列車に身を投げ下半身を失う」、テケテケ怪談の「列車事故で下半身を失うも、極度の寒さで即死することなく苦しんだ女性が怪異となった」という非常に近いパターンの背景が語られることもある。
このように非常に近しい特徴や背景から、一部ではテケテケの正体はカシマレイコであるとも流布され、両者の怪談は姉妹関係にあり、相互が参照される形で広まっていった説も唱えられている。
現代まで続く新型怪談の始祖

前述の通り、カシマさんは「テケテケ」と極めて近い関係にある。さらに、現代都市伝説の定番である「①聞いた者の元に現れる(感染性)」「②命を奪われる危険性(致命性)」「③特定の呪文や行動で助かる(救済措置)」という3つの法則を明確に備えた初期の都市伝説である。
① 聞いた者の前に現れる(感染性)
② 命を奪われる危険性(致命性)
③ 決まった行動で助かる(救済措置)
同時期に流行した「口裂け女」は②致命性と③救済を持つが①感染性はなく、「不幸の手紙」は①感染性を持つものの直接的な怪異ではない。後年のネット怪談「猿夢」は流布する中で①感染性を獲得し、女性型怪異の「ひきこさん」は「口裂け女」同様に②致命性と③救済の性質にとどまる。
また、1990年代末のJホラーブームを牽引した映画『リング』の貞子の呪い(期限付きの死②、他者への感染①による回避③)も、まさにこの①〜③の黄金構造そのものである。
つまりカシマさんは、当時の様々な怪異要素を一つの物語の中に集約させた到達点であり、同時に後年の都市伝説のフォーマットを決定づけた「新型怪談の先駆け」だったと言える。
この構造は、悪事を働いた本人や血族への祟り(因果応報)を主軸としていた「四谷怪談」や「皿屋敷」といった日本の古典怪談には存在しないものだ。カシマさんは、理由なき理不尽さと「伝播」のシステムを組み込むことで、人と人の間を伝う「拡散速度」に特化した、まったく新しいタイプの怪談(新型怪談)だったと言える。
そして、この驚異的な拡散速度を陰で支えたのが、ほかでもない「救済措置」の存在である。本来、人は自分が噂を話すことで相手が不幸に見舞われると知れば、罪悪感から話すことを躊躇する。しかし「こう答えれば助かる」という救済措置がセットになることで「対処法も教えてあげるから大丈夫」という大義名分が生まれ、語り手の罪悪感はなくなる。
救済措置によって人の口を軽くさせ、躊躇なく拡散させていく――。
カシマさんとは、人間の罪悪感を巧妙に回避させる心理トリックまで組み込まれた、極めて計算し尽くされた新型怪談だったのではないだろうか。
なぜ「カシマさん」という名なのか?
カシマさんの名前の由来について、現在でも定説は存在しない。
最もよく知られているのは、怪談の中で語られる「カは仮面のカ、シは死のシ、マは魔のマ」という語呂合わせである。しかし、これは呪いを解くためのキーワードとして後から付け加えられた要素と考えられ、名前そのものの由来を説明するものではない。
また、「カシマレイコ」という名称から「鹿島」という姓を持つ女性が元になったとする説や、「鹿島大明神」の名が怪談に取り込まれたことで神名と結び付けられたとする説も存在する。ただし、これらを裏付ける史料は確認されておらず、都市伝説が各地で語られる過程で後付けされた設定である可能性が高い。
では「カシマさん」の発祥地はどこ?

カシマさんの初出、いわゆるルーツについて、現在でも定説は存在しない。
しかし、ここでは怪異の名前と都市伝説にある一定の法則に従い、極力ルーツを辿ってみたい。
カシマさんのルーツを辿るなかで、この怪異には他にはない面白い特徴がある。
それは多くの怪談・都市伝説では、怪異に語られる内容を想起させる名前がつきやすい法則がある。口裂け女は大きく口が裂けた女性の怪異、テケテケは上半身のみで移動する音がテケテケだから、紫ババアは全身が紫づくめの老婆だからといった具合だ。
しかし「カシマさん」にはそれがない。
怪談の内容に名前のルーツがない以上、そこにあるのは怪談そのもののルーツや発祥と関係している可能性がある。
新潟県鹿島神社がルーツの可能性
1972年の朝日新聞新潟版の地方紙では、「カシマ」という怪異が子どもの間で流行しているという記事が上がっていることから、新潟県内の鹿島神社との関連を指摘する説も考えられる。
もしカシマさんの発祥が新潟県近郊であるのであれば、名前の謎を解くヒントはここにあるのかもしれない。
▼ 朝日新聞新潟版の地方紙の報道内容
同紙面では、ほぼ一面を使って報道されていた。
糸魚川のカシマさんは「顔の左半分が焼けただれたお岩さんのような表情で、鈴の音を合図に姿を現す。右足がないのと、両足のものとの2種類があって、子どもたちに「足、いるか」「名前は」など問いかけてくる。両足そろったユウレイには「いらない」と答え、片足だったら「いる」と答えるのが正解だが、答え方を間違えたり、ユウレイに名を聞かれて、うっかり自分の名前を答えたりすると、一週間以内にとり殺される」と報じられた。
引用元:「呪いの都市伝説 カシマさんを追う」
一般的なカシマさんと糸魚川のカシマさんは、身体の一部に関わる質問と致命性は共通するものの、下半身がないという最大の特徴は一致していない。
北海道の怪異「化神魔サマ」が由来の可能性
🔍️ 化神魔サマ
北海道札幌市の中学生の間で広まった都市伝説。日本の男性向け週刊誌「平凡パンチ」でも紹介された下半身のない怪異。話を聞いた者の前に現れ質問への答えを間違えれば呪われ、助かるためには5人に広めないといけないというもの。
上述した通り、平凡パンチ1972年8月7・14合併号では、化神魔サマという下半身のない怪異について取り扱った。
▼ 平凡パンチ1972年8月7・14合併号での内容
この話を聞いて三日めの、夜中の十一時から午前三時の間に、“化神魔サマ”という下半身のない妖怪が、キミの前に現れ三つ質問をする。そのとき正直に答えないと、呪い殺されるゾ』こんな怪談が、いま札幌市内の中学生を発生源にして、モーレツな勢いで拡がりつつある。もし呪い殺されたくなかったら、三日以内に、同じことを五人に正確に伝えなければならないという条件つきだからたまらない。
引用元:平凡パンチ1972年8月7・14合併号
この化神魔サマだが、怪談の伝承性、致命性、救済措置というカシマさん要素にピッタリと一致する怪異だ。しかも名前の「化神魔(かしま/かしんま)サマ」も一致度が高い。
そしてカシマさんに非常に似ており、姉妹説もある怪異テケテケも雪国を舞台とするバリエーションが多く、北海道をはじめとした寒冷地との結び付きが指摘されることがある。
このように「化神魔サマ」が1972年の雑誌に掲載されていることを考えると、少なくとも1972年前後には「下半身のない怪異」「話を聞くと現れる」「質問に答えられないと死ぬ」「他人へ伝えることで拡散する」という基本構造が北海道で成立していたことになる。
後年全国へ広まったカシマさんと共通点が非常に多いことから、偶然だけで説明するのは難しく、両者には何らかの系譜関係が存在した可能性もある。
現代ではほとんど語られなくなった理由
1970年代から1990年代にかけて学校の怪談ブームを支えた「口裂け女」や「カシマさん」だが、現在では以前ほど語られる機会は多くない。
大きな要因の一つとして考えられるのが、インターネットの普及である。1990年代後半から2000年代にかけて一般家庭へインターネットが広がると、怪談や都市伝説の主な発信源は学校や口コミから、掲示板や個人サイトへと移り始めた。
この流れの中で、「猿夢」「コトリバコ」「ひとりかくれんぼ」など、インターネット上(不特定多数)で誕生・拡散した怪談が次々と登場する。これらは地域や学校ごとの差が少なく、一度ネットへ投稿されると全国へ瞬く間に広がるという、口伝(特定少数)にはない拡散力を持っていた。
こうして、学校という限られたコミュニティで語り継がれてきたカシマさんは、新しいネット怪談の台頭とともに徐々に存在感を薄めていったと考えられる。
しかし、「話を聞いた者の前に現れる」「正しい答えを知っていれば助かる」という構造そのものは、後年のネット怪談にも受け継がれている。カシマさんは姿を消したのではなく、媒体を学校からインターネットへ移し、その系譜だけは現代まで生き続けているのかもしれない。
以上、都市伝説「カシマさん」の怪談とそれにまつわる考察でした。